可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
定食屋でランチ
そして翌日、午前中はデスクワークをこなし、昼食はコンビニで何かを買ってこようと部屋を出たところで「進藤係長」と声をかけられた
後ろを振り返ると、このフロアでは見ない人がいた


「お疲れさまです。進藤係長」
「お疲れさま。あなた、確か……」
「はい。海外事業部第1課の藤川美奈です」


にこっと笑う彼女は、猫目が可愛らしい人だった


「うちの宮本くんと同期なんですってね」
「はい。私達の同期、仲がいいんですよ」
「そう。それで、私に何か用?」
「ランチご一緒しませんか?」
「は?」
「係長、もう社食には行きたくはないですよね?」
「ま、まぁそうね」
「だったら行きましょう?」


そう言って藤川さんは私の腕を掴んで、ぐいぐいと引っ張って行った
藤川さんに連れて来られたのは、割りと会社の近くにある、定食屋だった


「昨日、皆川部長から怒られちゃって。『藤川のおかげで、相川が使い物にならない』って。だから、ちょっと進藤係長にゴマを擦っておこうかと。っていうのはこじつけで、私が進藤係長と話してみたかっただけなんですけどね」


てへっと笑う彼女につられて、私も笑う


「私と話してみたいって、藤川さんも変わり者ね。大概の人は私とはあまり関わりたくはないと思ってるわよ。特に女性陣は」
「そうですか?でも、宮本くんが言ってました。『進藤係長は厳しいけど、言ってることは正しいから、着いて行こうと思う』って」
「そう、なんだ」


なんか面と向かって言われると照れるわ


「そういう所、皆川部長と似てるかもしれませんね。海外事業部の方が係長は働きやすいかも?みんな、皆川部長のシゴキには耐えてきましたから」
「皆川部長に似てるって……あまり嬉しくないわよ」


軽く睨むと、藤川さんはスイマセンと肩を竦めた


「まあでも、入社したての時は海外事業部を希望してたんだけどね……て言うか、これ美味しいわね」


既に運ばれて来ていた、日替わり定食の鯖の味噌煮を口にして、思わず美味しいと言った


「そうでしょ?定食屋なんで、うちの会社の女性陣はほとんど来ませんから安心ですよ」


気を使ってくれたのね……


「ありがと」
「いえいえ。食べましょ」


そうして食べていると、藤川さんが、そう言えばと口を開いた


「木崎課長のことなんですけど」
「木崎課長?何か知ってるの?」
「うちの第2課の神崎係長が、なんで三浦常務の専任秘書を大人しくやってるのかが分からないって、言うんです」
「それ、どういう事?」
「木崎課長と神崎係長、フランス支社で一緒に仕事してた時があるそうなんです。すっごく出来る人だったらしくって、三浦常務の秘書やってるのが勿体無いくらいの人だって。だから……」
「何か考えがあって、三浦常務の秘書を?」
「はい。神崎係長はそう言ってます」


木崎課長は社長が目を掛けていると皆川部長も言っていた
やっぱり私にあんな事を言ったのは、何か理由があるんだろうか


「何かある度に海外事業部にいちゃもんつけてくる三浦常務の秘書が、うちの相川さんの彼女に近づいた。神崎係長、皆川部長に報告してました。三浦常務が何かを企んでるのを、木崎課長が教えてくれてるんじゃないかって。皆川部長もそう思っているみたいでした」
「そう。ありがとう。教えてくれて」
「いえ。それと、今回のこととは関係ないんですけど……」
「何?」
「相川さんのことです」


え?と藤川さんを見ると、苦笑しながら言った


「そんなに、心配そうな顔をしないでください。でも、皆川部長には私が言ったって言わないでくださいね」
「うん」


藤川さんはふうっと息を吐いた


「本当だったら、相川さんは係長にでも課長にでもなってるのに、自分の秘書にしたばっかりに、出世できないでいるって。皆川部長が言ってました」
「そう、なんだ」
「本当は相川さんだけじゃなく、神崎係長も課長に昇進させたいみたいなんですけど、海外事業部の1課から3課の3人の課長は、部長より年上だし、仕事も出来ない人達じゃないんで」
「無下にできないってことね」
「はい」


皆川部長がごり押しで相川くんを秘書にしたってことは、それだけ相川くんのことを買っているからだとは思っていた


「色々教えてくれて、ありがとうね。藤川さん」


そう言うと、藤川さんが驚いた顔をして私を見た


「なあに?私がありがとうって言うのがそんな珍しいの?」
「いえ。笑顔が素敵で見とれてしまいました」
「はっ?」


今度は私がびっくりした


「相川さんが惚れるのが分かります」


ニヤッと笑う藤川さんに、慌てて言った


「は、早く食べないと昼休み終わっちゃうわよ!」
「は〜い。またランチ一緒しましょうね。係長」


何故か楽しそうな彼女を見て、軽く笑って、急いで定食を食べた
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