可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
可愛げのない女
「また進藤係長にお小言言われちゃった」
「でも、ミスしたのはあんたじゃん?」
「そうだけど、言い方があると思わない?『よくこれで、うちの会社入れたわね』って、だから皆川部長にも振られるんだよ」


全部聞こえてるんですけどね
給湯室で話す時は気をつけてほしいわ、全く……
私は給湯室の入り口をコンコンと鳴らした


「そんな無駄口叩く隙があるんなら、さっきの書類さっさと作ってくれない?急ぎって言ってなかったかしら?」


私の声を聞くや否や、その子達は脱兎のごとく去って行った
ため息をつきながら席に戻り、出掛ける支度をして、取引先に向かう為に、会社を出た


私、進藤奈南美33歳は、日本でも大企業と言われている、総合商社のF社に勤めている
マーケティング部第1課係長という肩書きを持っている
確かに、20代の頃はがむしゃらに働いた
その結果が、今の地位にあるとは思っているが……
ふと回りを見たら、私と同年代の女性社員は結婚している人がほとんどだった
彼氏がいなかった訳ではないが、その頃は恋愛より仕事が大事だったので、結婚まで考えていなかった


そう、考えていなかったのだが、目の前に理想の人が現れた

その人は36才という若さで海外事業部部長
仕事も出来て、容姿も完璧な皆川慎一郎という人だった
あまりにも自分のストライクゾーンのど真ん中な人だったので、自分から告白した


皆川部長は
「同じ会社だから分かってると思うけど、君とは会える時間もあまりとれないと思う。それでもいいんなら」
と言って、渋々という感じで承諾した


自分の容姿には、はっきり言って自信があった
だから、冷酷で「鬼の皆川」と呼ばれている彼を、変えることが出来るのは私だけだとまで思っていた

だが皆川部長は私に言った通り、仕事優先で私と会うのは、月に1度か多くても2度
それもいつも疲れた顔をして、今付き合っているからしょうがなく会っているという感じだった
体の関係も付き合っている間にほんの数回あっただろうかという感じ

そんな関係が半年たったとき、私は賭けに出た
自分から別れようと言ったのだ
部長がどんな反応をするのかを試してみようと思った
私が好きなら、別れないだろうと思って

私が別れを切り出すと、部長はあっさり受け入れた
しかも、ほっとしたような顔をして……

私は思わず、涙を零した
そんなに思われていなかった事を突きつけられた現実と、自分が部長のことを本気で思っていたことを自覚したからだ

そんな事を自覚しても遅かった
私と部長は別れた

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