結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「俺は勉強を教えるより、皆を笑顔にするような仕事をしたかったから」


優しい目をして語られたその意志を聞いて、胸がじんわりと温かくなった。

私の緩んだ口からは、自然とこんな言葉が出てくる。


「私、好きなんです。社長が掲げてる、“お客様の幸せと笑顔を作るお手伝いをします”っていう理念」


これは泉堂社長が就任してから、企業理念のひとつとして加えられた新しいもので、とても素敵だと常々思っていたのだ。

この理念も上辺だけのものだったらどうしてくれようかと危惧したけれど、ちゃんと心からの声だったみたいでよかった。

ひとりニンマリしていると、一瞬真顔になった社長は、次にクスクスと笑い始める。それが嬉しそうに見えるのは、私の気のせいじゃないと思いたい。


「企業理念が好きだなんて初めて言われた。やっぱりお前は変わってるな」

「やっぱりって」

「ていうか、改めてこんな話すると照れるだろ」


“変わってる”と言われて少しヘコんだのもつかの間、ボソッと呟いて口にお寿司を放り込む彼を見てきょとんとする。

照れ隠ししてる社長なんて、眼鏡をかけたときと同じくらい滅多に見られないもの。

もぐもぐと口を動かす姿もなんだか可愛らしくて、私はほっこりしながら笑ってしまった。


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