結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
あと十分か……このもどかしい時間が嫌だ。早く来てください社長!

いてもたってもいられない思いで、ぎゅっと目をつむり祈っていた、そのとき。前方に車が停まる気配がして目を開いた。

エンジン音も静かに停まった黒光りする車の運転席から、颯爽と姿を現す人物を見て、一際大きく心臓が跳ねる。


「倉橋さん、お待たせ」


爽やかな笑みを見せ、市松模様の地面をコツコツと革靴を鳴らして歩いてくる泉堂社長は普段通りのスーツ姿で、いつ見ても麗しい。

私はガバッと頭を下げながら、「こんにちは!」と無駄に元気な挨拶をした。


「せっかくの休日に、時間を割いてくれてありがとうございます」

「いえ! 家にいてもゴロゴロしていただけなので」


ご丁寧に心遣いの言葉をかけてくれる社長は、本当によくできた人だ。

緊張でへらへらと笑ってしまう私に、優しげな眼差しを向ける彼はこんなことを言う。


「この間も思いましたが、白衣姿じゃないと雰囲気が変わりますね。今日の姿も素敵です」

「そっ、そんなこと……!」


あっさり真に受けてしまいそうになる自分に、これはお世辞だから!と言い聞かせ、謙遜しまくった。

< 56 / 276 >

この作品をシェア

pagetop