地味OLはシンデレラ
スタジオに到着すると、待ちかねていた佐野主任が顔面蒼白でやって来た。

そうだよ。
普通はこの状況だと焦るもんだよ。
なんで篠宮部長も社長も落ち着いてるんだろう。
メグちゃんもニコニコ笑って見送ってくれたっけ。

「僕のところにも連絡がきました。代役見つかったんですか?」
佐野主任の額にはうっすら汗が浮かんでる。
社長、代役探してくれてたのかな。
代役となると、サイズの微調整とかあって、出来れば早めにスタジオ入りしてほしいけど。
この際そんなことは言ってられない。
11時までにスタジオに入ってもらえれば、あとはスタイリストさん、メイクさん、カメラマンさんがなんとかしてくれるはず。

「代役ならここにいる」

篠宮部長の低音ボイスがスタジオの控え室に響く。
どこに?
ここって?
この控え室には篠宮部長と佐野主任と私しかいない。
あぁ。隣の部屋とか?

「栗原、お前が代役」

え~っと、なんか空耳が聞こえた気がする。
最近疲れてるのかな。

「だから、栗原が代役。急いで準備にとりかかるぞ」
「はぁ!?」
ちょっと待って!
打ち合わせ始めようとしないで!
佐野主任もなんとか言ってよ!
「私が代役って、なんなんですか!?」
「そのまんまの意味だけど」
「無理に決まってるじゃないですか!?」
「なんで?」
「なんでって!佐野主任もなんとか言ってくださいよ!」
「栗原さん、助かったよ~。僕の企画、ボツにならなくて」
佐野主任、私を助ける気はないんだね。
「モデルの代役って、私に務まるワケないでしょう!どっからどう見ても!」
「社長命令」
篠宮部長の最後の一言で、私は脱力した。

叔父さん、私を嵌めたわね。
こんな地味子にモデルをさせようなんて、正気の沙汰じゃないよ。

そういえば、昔から叔父さんは私のことをお姫様扱いしてたっけ。
幼い頃のことを思い出す。

誕生日には遊園地を貸し切り。
入学祝いと卒業祝いには豪華な旅行。
車の免許を取った時は高級車をプレゼントしようとしてたっけ。
私が断固拒否したんだよ。

「叔父さんめ~!」
私はトイレに駆け込み、ひとり叫んだ。
ここなら誰にも聞かれない。
叔父さんに電話をかけるが、全然つながらない。
気づいてて無視してるに違いない。

バッグからポーチを取り出し、眼鏡を外して予備のコンタクトレンズをはめる。
叔父さんの頼みで、社長のお供としてパーティーに参加することが何度かあった。
眼鏡はダメって言われて、しぶしぶコンタクトレンズを作った。

「どうなっても知らないからね!」
鏡に向かって、ひとり叫んだ。


< 6 / 49 >

この作品をシェア

pagetop