【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜


まずは、…彼女の心を懐柔出来るようになりたい。
勿論、今でも少しはこちら側に傾いてくれているだろうことは分かっているけれど。


…自惚れでもいいんだ。
それでも、彼女はきっと俺を意識し始めてる。
その証拠に、さっきこの部屋を出て行ったっきり、執務室に身を潜めていて出て来ない。


何時もの俺ならば、内線で無駄に呼び出し、この部屋に留まれと言いつけて、否応なしに自分の傍に置くのに。

今日は、これ以上彼女の気分を害したくなくて、そのままにしている。


駆け引きは苦手だ。
あまり、得意な方じゃない。

押すか引くかと問われたら、迷わず押し進む。

元から、互いのイエス&ノー関係なしに、打算で付き合うことだって、いい加減良い年した大人なんだ、有り得なくはない。
愛だの恋だの、と熱に浮かされるよりも、もっと合理的な体の繋がりだけが大事なんだと。
利害関係の上での繋がりこそが至上…そう、ずっと思っていたのに。


何を焦っている?
何が不安なんだ…。


彼女といると見事に自分が狂う。

振り向かせたくて、わざと彼女の感情を剥き出しにさせては、からかうなと叱られて微笑む。

その、繰り返し。

それが、なんの為になる?

非生産的、じゃないかと思いつつも止められないのは、多分…これがきっと本物の「愛情」ってやつだからなんだろう。


温もりは、好きだ。
包まれる感覚に溺れることも。


ただ、今は…それを彼女と楽しみたい。


そう願うだけ。


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