君を愛していいのは俺だけ

「企画のことだよ」

 そう言っても、彼は黒縁眼鏡の奥から見透かすように私を見てから、仕事に戻った。


 滝澤さんといると調子が狂う。
 一度も陽太くんのことが好きだなんて言ってないし、過去のことは秘密にしている。
 それなのに、ただ日頃の様子を見ているだけで、私の気持ちまで知っているようなことを言うから、気が気じゃない。


 再び企画内容についての資料を作成しながら、取引先とメールでやりとりしていたら、滝澤さんからも届いた。


【今日、飲みに行かない?】

 ただそれだけの内容だったけど、気まずい。
 滝澤さんと飲みに行くなら、桃子ちゃんが一緒じゃないと無理だ。


【いいですけど、桃子ちゃんも誘いましょう】
【俺は、秋吉さんと飲みに行きたいんだけど】
【どうしたの? なにかあったの?】

 滝澤さんから誘いがあるなんて初めてのことだから、きっとなにかあったに違いない。


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