君を愛していいのは俺だけ

「あとは?」
「……このマンションに住んだのはいつ?」
「去年の秋だよ。なんで?」
「近くにいたのに、全然会わなかったなぁと思って」

 前職はこの界隈に本社があって、日々通勤していた。それに、今も住んでいる千駄ヶ谷の自宅もほど近い。
 こんなに近くにいたのに会えずにいたなんて。


「会わないもんだな、本当」

 彼が懐かしむような瞳で私を見つめてくる。
 そして私は、彼の瞳に映っていられる時間に、いつまでも身を委ねたくなった。

 それほどに、月日が経っていても彼の隣は居心地がいい。
 緊張や鼓動の音は収まってくれなくて少し苦しいけれど、それすら愛しく思える。


「こんなことを言ったら、仁香は引くかもしれないけど」
「……うん、なに?」

 相槌を打つと、彼はゆるやかに口角を上げ、そっと手を伸ばす。

 そして、遠慮気味に私の髪を撫でてきて。


「仁香に会いたいって思ってたんだよ」

 私の鼓動がまたひとつ大きく鳴りだした。


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