君を愛していいのは俺だけ

「忘れ物ない?」
「うん」

 陽太くんと過ごすお正月も、贅沢な温泉宿に宿泊できるのも、幸せすぎて頬が緩んでしまう。
 こんな素敵なお正月は生まれて初めてかもしれないなぁ。


「仁香? どうした?」
「うぅん、なんでもないよ。素敵な宿だなぁって思って」

 浴衣姿の陽太くんをどうしてもまっすぐに見れず、視線を泳がせる館内の景色でごまかした。
 女性の私の何百倍もの色気があって、通りすがる他の宿泊客の視線まで集めてしまうほどなのに、当の本人は気付いていないようで。

 行燈が灯る通路を歩く間、色浴衣を着ている私を度々見つめてくるけれど、いつにも増して視線を合わせられなくなった。


「周防様、これからお風呂ですか?」

 すれ違った仲居さんが声をかけてきた。


「はい。先ほどご連絡いただきましたので」
「どうぞごゆっくり。奥様もごゆるりとお過ごしくださいませ」

 ……お、奥様っ!!

 チェックインの記帳で、彼が連名で書いていたせいだと思い出す。

 まだ婚約者なのに奥様なんて言われたら、頬が熱くなってきた。


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