イジワル騎士団長の傲慢な求愛
(――嫌だ!!!)

セシルがベッドの弾性を利用して全力で体を跳ね上げると、運よく巨体の腹にセシルの膝が入った。

「ぅぐっ!」

腹を押さえ、よろける巨体。その隙にセシルはベッドから落ちるように這い出る。
着地の瞬間、床に肩を強く打ち付けて、呼吸が止まりそうなほど激しい痛みが腕から鎖骨にかけて走る。

「騒ぐなよ」傍観しているもうひとりの男の冷静な声が飛んでくる。
が、今やセシルを襲うことに夢中になってしまっている巨体の耳にはそんな声も届かないらしい。

「暴れるな! 往生際の悪いヤツだ!」

セシル自身もこんなことをしても逃げ切れるわけがないとわかっていた。ほんの少し、襲われる時間を先送りするだけだ。
とはいえ大人しく襲われるわけにもいかなくて、無我夢中で床を転げ回った。

男の手がセシルの肩を床に押しつける。ベッドから落ちたときに痛めた場所を掴まれて、喉の奥から悲鳴が漏れた。

暴れた足が壁際に置いてあったチェストへ勢いよくあたり、同時にガシャン――!! というガラスの割れた音がした。
どうやら上に置いてあった花瓶が落ちて割れたらしい。
ヒールの脱げた足の先から、じんわりと濡れたカーペットの湿り気が伝わってくる。

「この女! 観念しろ」

男が馬乗りになってセシルを押さえつける。これ以上、抵抗のしようもない。
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