イジワル騎士団長の傲慢な求愛
隣の部屋で拘束されていた側近の男――エドガーは、布で手足を縛られたまま床に転がされていた。
すでに仮面は外され、素顔はあらわになっており、情けなく表情を歪めている。

ルーファスはこの顔を見て思い出した。ダンテ侯爵の側近というよりは、三、四番手くらいの、小者だ。
この男がすべての計画を企んだのだろうか。

「本人は、ダンテ侯爵自身は無関係だと言っています。独断でやった、と」

いったいどんな脅しをかけて吐かせたのだろう。フェリクスが喋るたびに、エドガーは怯えてびくりと体を震わす。

「本当に独断か、あるいは侯爵を庇っているか、どちらかですね」

ルシウスが腕を組み、冷静に推測を述べた。

「この男自身も使い捨ての駒だということだろう。ダンテ侯爵に不利な証言をすれば、あっさりと切り捨てられる」

ルーファスは抱いていたセシルをそっと下ろすと、床の上に転がされているエドガーに近より話しやすいよう膝を折った。

「いいか、よく聞け。こちらには貴様がやったという証拠がある。伯爵に毒を盛った侍女や、そこに縛り上げた男が、いざとなればお前がやったと証言する」

先ほどセシルを攫った男のひとり――今では手足にロープを巻かれ、布を食まされ、セシルがそうだったのと同じ扱いを受けている――を目線で差し示しながらルーファスが言った。

「ダンテ侯爵は貴様など庇ってはくれない。自分に不都合な事実は、貴様の首を切ってでも隠し通す。お前が一番よくわかっているだろう。俺たちがこの件を訴えれば、誘拐と暗殺未遂で縄にかけられるのは貴様自身だ。どれくらい重い罪なのかは、よく知っているな」

エドガーがこくこくと頷く。なんだか見ているこちらが憐れになってくるくらい惨めな三流悪役だ。

「それが嫌なら、二度とローズベリー家に手を出すな。そして主人に伝えろ。これからはローズベリー家だけではない、フランドル家も相手になると。ふたつの領地を敵に回せば、侯爵といえど得策にはならないだろう」

エドガーは変わらず情けなく頷いている。
こんな覚悟もなにもない悪党に父親を殺されかけたかと思うとセシルは腹が立った。
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