イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「お姉様!? これはどういう――」

「セシル。実はね。私、このドレス、胸が苦しくて入らないのよ」

「はぁ!?」

豊満な胸をパンパンと叩き、ニヤリと嫌らしく笑う姉を、セシルはぎょっと見返す。

「だからね。代わりにあなたに着て貰えたらと思って」

とんでもない言い分に、うしろで傍観していたルシウスが手を口に当ててクスクスと吹き出した。
いったいどういうことなのか、セシルには意味がまったくわからない。

「ウェディングドレスを代わりにって――なんの冗談?」

「あら。変装はお得意でしょう? この数年間、ずっと弟に化けてきたじゃない。同性の姉に変装するくらい、簡単よ」

「馬鹿なこと言わないで! 結婚式で変装だなんて、いったいなにを考えて――」

言い争っている間にも、侍女たちはセシルを椅子に座らせ、髪を巻き、メイクを施し、準備を整えていく。

セシルの黒髪には緩くウェーブが施されて、姉とそっくりの質感になった。
反対に、隣に座ったシャンテルは、せっかくの美しいウェーブを真っ直ぐに梳き、セシルと見間違うようなストレートヘアーに直してしまった。

あっという間に純白のドレスを着せられて、鏡の前に立たされたセシルは、隙の無い完璧な花嫁姿に思わず息をのんだ。

着替えの間、外で待っていたルシウスが扉からひょっこりと顔を覗かせて、満開の笑顔を咲かせる。

「ああ、綺麗ですね、セシル様。シャンテル様に負けず劣らず」

「胸のサイズは少し私の方が大きいけれど、これなら私だと言い張ればバレないわね」

にこにこと笑い合うルシウスとシャンテル。
一方のシャンテルは、セシルが先ほどまで着ていたものとそっくりな淡いブルーのドレスを身に纏っている。
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