夜の庭園で。煌びやかなロイヤルブルーの燕尾服を身に纏った青年が、深紅の薔薇に指先を添えて、丁寧にその花弁を眺めていた。

「また会えたな」

白金のウェーブがかった髪が、夜風に撫でられて柔らかく揺れた。
顔は派手な装飾を施された仮面で隠されていてよくわからない。
ただ、静かな湖面を思わせる深い蒼の瞳と、形のいい唇が、あのときの彼であると証明していた。

「こちらへ。そんなに遠くては、話もできない」

差し伸べられた手に、セシルは躊躇いつつも、自らの手を重ねる。

一回り大きくて長い指先が愛でるようにセシルの手の甲を撫でた。
と同時に強く体を引き導かれ、鼓動が大きく跳ね上がる。

「きゃっ……」

あっという間に、腰を抱かれ、彼の腕の中に収まってしまった。

もちろん、こうして男性と体を触れ合わせることは初めてで、心臓が口から飛び出そうになる。

「もう一度会えたなら、素顔を見せるという約束だったな」

彼の手がセシルの目もとの仮面に伸びる。
しかし、素顔を晒すのは仮面舞踏会において最大の禁忌。

「いけません……っ!」

腕の中でもがくも、彼はあっさりとセシルの仮面を剥ぎ取った。

顔に乗っていた重みが消え、涼やかな夜風が肌をくすぐり、一瞬だけ心地よい解放感を味わう。
けれど、すぐさま恥ずかしさと罪悪がセシルの胸に押し寄せてきて、両手で顔を覆った。

素顔を知られてはならない。
セシルがひとりの女性として恋することを許されたのは、今日この宵限りなのだから。

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