イジワル騎士団長の傲慢な求愛
ルーファスに耳打ちされたルシウスは、その瞳をセシルへ向ける。
わずかに緊張した面持ちで笑顔を作ると、セシルの前で胸に手を当てて紳士の一礼をした。

「初めてお目にかかります。フランドル家次男、ルシウスと申します。ご挨拶の前に厚かましくもあのような書面をお送りしてしまったこと、ご容赦ください」

清流のように澄んだ声と、はにかんだ笑顔。優しい眼差し。けれど背筋は凛としていて、良家の風格がある。

あの仮面舞踏会の晩に出会った彼は、もう少し雄々しく砕けた印象だったが、もしかしたら大勢に囲まれて緊張しているのかもしれない。なにしろ、両家が初めて顔合わせする、大事な場面だ。

彼こそがあの仮面の君。書状に書いてあったのだから同一人物であることは明白。
その髪色と瞳、紳士な仕草は間違えようがない。

長い間、圧し殺していた愛おしさ。叶わないと絶望していた恋。
その苦しい時間を思い出して、早くもセシルは感極まって、涙がこぼれそうになってしまう。

思わず両手で口もとを覆いうつむいてしまったセシルに、隣にいたシャンテルが助け舟を出した。

「ごめんなさい、妹のセシルは、本当にルシウス様との婚約を嬉しく思っていて……」

「光栄です。この名にかけて必ずや幸せにすると誓いましょう」

ルシウスが胸に手を当てたまま膝を折る。
跪いて、セシルの手を優しく取り、その甲に口づけ信愛の証を落とした。
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