イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「症状を聞く限り、なんらかの毒物の中毒症状の可能性もありそうだが。少量の毒を毎日与えられ続けているという可能性は?」

「……まさか、そんな。でも、それならばなぜ伯爵だけがこんな目に」

「伯爵の食事に毒を入れることが可能で、他の者の食事には入れることができない人物ということだろう。伯爵と娘たちの給使係は同じか?」

「別人です。伯爵のお世話は、専任の使用人に任せています」

答えたフェリクスも、シャンテル同様、真っ青な顔色をしていた。
身内に毒を盛られるなど、考えたこともなかったのだろう。
しばらく難しい顔で悩んだあと、顔を上げ、緊張を含む掠れた声を絞り出した。

「……わかりました。しばらく内々で、給仕係や侍女たちの動向を探ってみましょう」

「そうしてくれ」

嫌な緊張感が部屋を包み込んでいる。ごくりと息をのむ音が、部屋中に響いてしまいそうだ。
不安気なセシルにルーファスは揺るぎない瞳を向ける。

「命を狙われているからといって、婚約をなかったことにする気はない。必ず守るから安心しろ」

その誓いは力強く、なによりも頼もしかった。
耐え切れずぎゅっと握った手のひらを、すかさず横にいたシャンテルが落ち着いてというように包み込んでくれる。

そのとき、ノックの音が響いた。

「お待たせいたしました。医者をお連れしました」

使用人に連れられてローズベリー家御用達の医者が部屋へ入ってくる。

「お怪我をされたのは――」

「彼女です。お願い致します」

セシルがベッドから右足を垂らすと、医者は膝をつき診療を始めた。
それを確認したルーファスは、黙ったまま部屋を出て行ってしまった。
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