イジワル騎士団長の傲慢な求愛
口づけの要求に、思わずセシルは顔を背ける。

「待ってください……」

「セシル……」

ルシウスのことが嫌いなわけではない。結婚も受け入れたいと思っている。
なのに本能が拒んでしまうのは、どうしてなのだろう。

「……だめっ!」

気がつくとセシルは、ルシウスの体をうしろへと突き飛ばしていた。
尻餅をつき呆然とするルシウスの姿に、セシルは自分のしてしまったことの罪深さを痛感する。

ルーファスに口づけを求められたときは、拒まなかった。
夫となるルシウスではなく、ルーファスを選んでしまった、その事実がセシルの胸に突き刺さって、ぼろぼろと涙があふれてくる。

「……ごめんなさい……」

ベッドから急いで起き上がると、一目散に部屋の出口へ向かって走りだした。

「セシル!!」

ドレスの裾を踏み転びそうになりながらも、部屋を飛び出し走るセシル。呼び止めるルシウスの声。

けれど――。

その行く手を阻んだのは、ルシウスではなかった。

黒いローブを着た男三人。目もとには仮面。
セシルよりずっと大きな巨体をした彼らには、見覚えがあった。
かつて、セシルがアデルに成り代わって宮殿に赴いたときに襲ってきた、隣領・ヴァイール伯の手の者たち――いや、その身分を模した、得体の知れない何者か。
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