イジワル騎士団長の傲慢な求愛
ルーファスの父にあたるフランドル前伯爵が亡くなり、先立たれた母が必死になって息子の花嫁候補を探しているのは知っていた。
結婚など政治的なものだ、どんな女性でも変わらない、だから選択はすべて母に一任するつもりだった。それが親孝行なのだと思っていた。

しかし、彼女となら、この先の未来に希望が見える気がして、その心は揺れた。

その夜、ルーファスは母には内緒で縁談の書状をしたためた。

しかし、それはあっさりと目を光らせていた使用人に見つかり、母によって書き変えられた。

病弱と噂され世継ぎを身ごもれるかもわからない女を、現当主の嫁に据えるなど論外。
とはいえ、ルーファスも当主である身。母の言い分も理解できる。
嫁には、少しでも政治的利益のある者を。そして、世継ぎが埋める健康な女性を。
それも仕方がない、ルーファスの当主としての側面がそう告げて、それ以上の反論はできなかった。

いっそ縁談の書状を破棄してくれればよかったものを、母が書状の名義をルーファスからルシウスに差し替えたから事態がややこしくなった。
ローズベリー伯爵領が鉱石の採掘と加工で潤っていることを知り、経済的利用価値を見いだしたのだろう。
この機会を失うのは惜しいと考えたのかもしれない。

ルシウスにとっても晴天の霹靂。まさか兄の代わりをあてがわれるとは。
ルーファスとしても、懇意の女性が弟に奪われてしまう形となり、平静ではいられなくなった。

複雑な心境のまま、訪れたローズベリー家。

白昼のもと、初めて目の当たりにした彼女の素顔は、代わらず美しく、そして純真だった。

ルシウスを見つめて頬を赤らめ嬉しそうにするセシルの姿に、ルーファスは悔しさと独占欲を覚えた。
彼女を見つけたのは自分だったはずなのに。なぜ弟のものに。
けれど、今となっては手を出すことも許されない。

――彼女を連れて姿をくらましてやろうか……?
そんな考えが頭をよぎったけれど、そんな衝動に流されるほどルーファスは子どもではないし、向こう見ずでもなかった。
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