─────東京にあるマンションの一室


揚羽蝶のボスである金 総林【キムソウレイ】は、ここに仮のアジトを構えており、明明【ミンメイ】に加え、新たに幹部として任命された朱雀【スザク】と共に、今後の動向について話し合っていた。

「ボス。しかし群馬の連中はあっという間でしたよね。周明が日本の極道と組むとは思ってもみませんでしたし、ちょっと厄介な事になりました」

明明の言葉を受けて、総林は得意気に胸を張って答えた。

「慌てるな、こんなのは予想の範疇だ。だいたい関東北辰会だけでも三千からの極道が居るんだよ? 確かにあんな反撃を受けたのは手痛い限りだが、我が揚羽蝶は本国にまだ沢山の駒を残している」

「でも、我々の得意とする『隠密行動』は、全て周明によって暴かれてしまったんですよ? 今のままではいくら兵隊をつぎ込んでも……」

椅子に座ったまま背中を丸め、弱気な発言をする明明に歩み寄った総林は、彼を宥めるように優しい口調で囁いた。

「僕にはアイデアが有ると言っただろ? 案ずるな、勝負はこれからだ。先ずは本国から二百名ばかりを選りすぐって呼び寄せてくれないか?」

「ハッ。ボスの仰せのままに」

これまでの様子を見ていた明明は、やはり素人には荷が重過ぎたのではないかと総林を疑い始めていた。

しかし、彼の言うアイデアはまだ実践されていなかったのだ。この時明明は『毒喰らわば皿まで』と、総林の手腕がもたらす組織のいく末を、同じ船に乗って見届ける決心をした。

≪そうとも、それが喩え泥の船だったとしてもだ≫

「明明、増援部隊が到着したら忙しくなるよ? 覚悟しといた方がいい」

「承知致しました」

深く頭を下げた明明の心は、憑き物が落ちたかのように晴れていた。もう何も考えまい。格闘家として、その熱い命を燃やし尽くせる、人生のベストバウトが出来ればいい。彼は周明との闘いに思いを馳せていた。

「じゃあ朱雀もいいね、また始めるよ」

「ボスのお心のままに」

総林の命令により、再び揚羽蝶は動き出した。