遠い昔からの物語

◇第三話◇


わたしは呆然と立ち尽くしていた。

夜は別の部屋を用意してあるというので、父はわたしをここへ寄こしたのに。

不機嫌そうに顔を(しか)めた父の顔が浮かんだ。

どんなときでも明るく朗らかに笑う母の顔も。

そして、好きな人と結ばれることになって、一段と綺麗になった姉の顔も。

……今頃、なにしょうるんじゃろう。

わたしの目に涙が込み上げてきた。

でも、ここで泣くわけにはいかない。

だから、わたしは気を紛らわすために、胸に抱えた風呂の道具を片付けにかかった。

着替えた着物や肌襦袢を衣紋掛けに吊るし、濡れた手ぬぐいを干し、汚れ物を鞄の中に入れた。

できるだけ、バタバタと音を立ててやった。

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