ライアーピース
Piece8



自分のこの感情が“恋”
なんだと知った途端、胸が苦しくなった。


もう、1年前には戻れない。


記憶を失くした陸は、
もうここにはいない。


『若葉』


私をそう呼んでくれた陸は、
どこにもいない。


どこを探しても、私の知っている
陸はいなくなってしまった。


唯と一緒に生きる陸を、
虚しい気持ちで眺めるだけになってしまった。


私はこの時初めて、
私のついた“嘘”を悔やんだ。


陸と再会していなければ、
私があんな嘘をついて
彼女のフリなんかしなければ、


きっとこんなにも
傷つくことはなかったはずなのに。


いつの間にか高校1年生も終わり、
気付けば2年にあがっていた。


あれから陸とは話していない。


隣には常に、唯がいる。


何たる偶然か、2年生のクラスは
陸と同じクラスになってしまった。


私はB組。唯はF組になって、
なんだか複雑な気持ちで2年の春を迎えた。


「お、おはよう、陸」


「・・・・誰?」


「私、二宮若葉だよ。
 陸の・・・-っ」





“彼女だよ”



なんて、この期に及んで今もまだ、
嘘をつこうとする自分がいる。


「陸の、友達・・・」


私はとっさにそう言い換えた。


すると陸はやわらかい表情を見せた。


「おう、そっか!
 よろしくな。二宮」



“二宮”と呼ぶ陸。


もう私のことを
名前で呼んではくれないのね。


そう思うとまた胸が
締め付けられるような感覚に陥る。


私の心は、常に
急降下するジェットコースターみたい。


ちょっと浮かれて上昇しては
一気にどん底まで落とされる。


私はもう、高望みはしない。


これでいいんだ。これで。


幼馴染でも彼女でもない、友達。


それだけでもいい。
陸のそばにいたい。


そう思うようになった。


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