オトナの恋は礼儀知らず
1.暗いトンネル
 気づけば長いトンネルだった。

 空気の澄んだ心地よい緑が目に飛び込んでくる風景。
 木々が作る緑のトンネルを「生き返るわね」とリフレッシュしながらお洒落な散歩を決め込んでいた。

 それが、だ。

 生き返るどころか棺桶に片足を突っ込んでいると気付いた頃には、癒しの風景は仄暗い枯れた寒々しい木々の抜け道のないトンネルだった。

 行けば行くほど先細るトンネルの先は明るく輝いているどころか蠢く死者達の墓場だ。

 不惑の歳。
 誰が言ったのよ。

 孔子だかなんだか知らないけど、どうして迷わないか簡潔に述べなさいよ。

 別に自分の歩んできた人生を後悔はしていない。
 ただここに来た事は後悔している。

 友恵は憤慨する心を表に出さないように仏の鉄仮面で闊歩していた。

 平日の図書館。

 友恵にしてみたら地獄絵を踏み絵するような場所だった。
 もちろん鬼は踏まないように歩く。

 知らなかった。
 平日の図書館がわめき散らして暴れまわる野獣達の巣窟と化していたとは。

 分かっている。
 多分、更年期が始まりかけているんだ。

 走り回る獣……もとい子供達を蹴飛ばさないように足早に通り過ぎる。

 駅前の大きな図書館に行けば良かった。
 近くにあったからと分館に来たばっかりに。

 ううん。
 お金に糸目をつけず本屋で良かったんだわ。

 悪魔の呻き声とも言える子供達のキャーキャー騒ぐ声から逃れて、見つけた椅子によろめいた。

 目眩がする。

 今まで避けて通って来たものがしっぺ返しのように襲いかかってきたみたいだ。





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