オトナの恋は礼儀知らず
4.頭痛かそれとも別のもの
「友恵さん。」

 どうして名前を知っているわけ!?
 じゃなくて!!!

 寝返りを打ったその人は館長……つまり『桜川さん』だった。


「どうして……………………。」

 記憶がない。
 いや、ないならないで思い出したくない。

「すみません。
 この歳になるとアプローチの仕方が分かりませんでしたので、逃れられない一番の方法をさせていただぎした。」

 いや、この歳だからこそ軽率なんじゃなくて?
 だってこの人、私のこと何も知らないでしょ?

 結婚してるかもしれないのに。

 あぁそうね。そうだったわ。
 不倫相手をお探しですものね。

 既成事実を作られて、追い詰められた逃げ場のないウサギちゃんだわ。
 いいえ。蛇に睨まれた、ただの蛙かしら。

「逃れられない方法というのは、脅されるわけですか?」

「脅……す?
 なるほど、そうですね。
 脅しましょう。」

 整った顔立ちを柔らかく崩されても、こちらは従えない。

 言うんじゃなかった感、満載のこの気持ちをどうしてくれよう。

 そうよ。
 騙す、脅す、そして火遊び。
 それらの言葉に一番縁遠い人。

 図書館で話した時から硬めのスーツが代名詞の公務員だった。

 背が高く清潔感のある短めの髪。
 そして見たくなくても見えている無駄のない体。
 鍛えています!という体ではないけれど、自然体の、しかしたるんでいない体は好感が持てた。

 若い頃は間違いなくモテていただろう。
 真面目でも硬くても女の子達がきっと放っておかない。



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