恋愛ノスタルジー
意外な一面
*****


「凌央さんー、こんにちはぁ!」

「おう!来たな」

夢川貿易から出た私はスーパーで食材を調達すると、急いで凌央さんのマンションを目指した。

渡されていたカードキーで凌央さんの家に入ると、一番北側のアトリエから声が響く。

「丁度良かった。水飲む時にそっちに硝子棒を忘れてきた。取ってきてくれ」

「あ、はーい!」

大きく返事をしたものの、硝子棒は見当たらない。

……冷蔵庫の近くかな。お水を飲んだ時に忘れたって言ってたから。

私はダイニングテーブルに食材を置くと、キッチンと隣り合わせの仕切りのないリビングを覗き込んだ。

***

「……なんだよこれ」

凌央さんは私が手渡した物をシゲシゲと見て呟いた。

「リビングに見当たらなくて、キッチンの引き出しから取ってきました。ガラス棒ってマドラーの事じゃないんですか?」

そうだと疑わなかった私が驚いていると、凌央さんは身体を大袈裟に仰け反らせた。

「これは俺がハイボール混ぜる時に使ってるやつで硝子棒じゃねえよ」

「ああ、どうりで軽いなーって思いました。プラスティックですか?」

「お前、ふざけてんのか。マドラーの素材なんかどうでもいーんだよ。硝子棒ってのは線を描く道具だ」

「えっ?ガラスの棒で描くんですか?」

さすが雨で画を描く人だけのことはある。

「雨でも棒でも描くなんて、凄いですね!」
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