国王陛下の極上ティータイム
カンコートのグレーズ
王太后様がこのオルレアン伯爵家にいらっしゃると、屋敷では大変な騒ぎになっていた。

今日の朝突然決まったことのようで旦那様や奥様も身支度に忙しいが、使用人たちもお客様がいらっしゃる準備をしなければならず忙しく動き回っている。

大変だ、大変だと騒ぎ立てる使用人達を傍目に、侍女のクラリスだけはいつもと同じように冷静に仕事をこなしていた。

別に誰が来ようとには関係がない。このお屋敷に貴族のお客様がいらっしゃるのはいつものことだし、王族の方だって今までに何度かいらしている。

その度にこのオルレアン伯爵家のご主人様はたいそう交友関係が広く信頼も厚いようだといつもクラリスは思っていた。

それに、どんなに高貴なお方がいらしても、自分のするべき仕事をするだけだとクラリスは思っていた。


「クラリス」


クラリスの名前を呼んだのは、この屋敷で侍女達をまとめあげるコレット侍女長。クラリスの上司にあたる。

落ち着き払ったコレット侍女長はこの時も慌てた様子を一切見せずに、たくさんの侍女達にあれこれと的確な指示を出している。

「旦那様からのご命令だ。王太后様がいらっしゃったときにお前が茶を準備しなさい」

「…私が、ですか?」

クラリスはコレット侍女長の言葉を疑った。

あまりのことにすぐに信じることができなかったのだ。

「本来ならお前の立場では王太后様にお目にかかることはできないのだから、お前が驚くのも仕方がないことだろうね」

コレット侍女長はクラリスの反応を面白く思ったのか少し笑いをこらえてそう言った。

全くその通りだったのでクラリスは頷くことしかできなかった。
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