あなたの心を❤️で満たして
お披露目式前夜
(明日からもうこの部屋で眠ることもない……)


窓辺に近付き、観音開きの格子窓を外に向かって開くと、ふわっと冷たい春風が舞い込んでくる。

それを身に纏いつつ白い窓枠の向こう側を見遣れば、黒くて太い幹から伸びた枝の先に無数の白い桜が咲き乱れていた。

春夏秋冬、変わり続ける木の様子を見つめながら育った。特にこの時期の桜を部屋から眺めるのが好きだった……。


ふわりと部屋に舞い込む風がカーテンを揺らし、それに乗ってハート型の花弁が窓辺の縁に集まってくる。

一枚、二枚…と増えていくその花弁を見つめ、今は凄く不安だけれど、先ではこの桜のように一切の不安もなくなり、明るい気持ちで過ごしていられればいいが…と願った。


今の自分はとても複雑な心境だった。
会ったこともなければ顔さえ知らない相手の元に明日嫁がなければいけない。

幼い頃、この家に引き取られて二十年以上経つが、まさかこんな形で離れる日が来ることになるとは思わなかった。

出来ればずっとこの家に住み続け、亡き祖父母の仏壇を守っていきたいと願っていたのにーー。


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