第一王子に、転生令嬢のハーブティーを

2.対面





(本当、何でわたしなのかしら)



 王子の婚約者に選ばれたという知らせを聞いた2日後、アリシアは王宮に向かう馬車に乗っていた。

 何度もため息をついているが、向いに座る父は、それが緊張のためのものだと思っているのだろう。



 アリシアは、あのお茶会で王子が自分のことを見ていないという自信があった。

 実際、お茶会当日にアリシアがイルヴィス王子と言葉を交わしたのは、挨拶した時の一度きりだった。

 イルヴィスはお茶会の間中公爵家のご息女を初めとする、きらびやかな格好の令嬢たちに囲まれていて、近づこうに近づけなかった。まあ別に近づこうと思わなかったが。

 正直に言うと、お茶やお菓子が美味しかったという記憶しかない。



(にしても前世の記憶が戻ってから5年。その間ずっとここが『黒髪メイドの恋愛事情』の世界だと気が付かなかったなんて……)



 アリシアのため息の原因は、緊張ではなくこのことだった。

 『黒髪メイドの恋愛事情』それは、前世の“彼女”が読んだ少女漫画の一つだ。特別好んではいなかったファンタジー系の恋愛もの。

 孤児院出身だが高い能力を買われ、王宮のメイドになった主人公が、掴みどころのない第三王子に振り回されながらも惹かれあっていくというストーリーだ。


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