冷徹社長の容赦ないご愛執
「少しの時間だけ部屋に通したいのですが、大丈夫でしょうか」


 その言葉を聞いてはっとした。

 宿泊施設では、一般的に宿泊客以外の入館には厳しいはずだ。

 それなのに、なにも考えずノコノコとついてきてしまって、そばに立つ社長をしゅんと見上げた。


「社長、私やっぱり帰ります。部外者の入館はできないはずです。ですよね? 中川さん」

「そうですね、ご面会の場合は通常ロビーをご利用いただく決まりにはなっております」


 中川さんから社長へと順番に視線を移すと、社長は仕方ないといった様子で眉を下げる。


「ロビーだと冷えるな……すまない。俺も先に確認しておけばよかった」


 その表情に、胸がきゅっと締めつけられた。

 さっきの寂しげな顔が忘れられなくて、このまま帰ることはためらってしまう。

 かといって、この田舎町に夜中に飲めるような飲食店はない。

 視線を交わし合うと、社長の瞳からも残念だという思いが伝わってきた気がした。

 気持ちが同調しているようで、寂しさとは違う部分で胸がとくりと音を立てる。

 口に出さなくても思っていることがわかるなんて、ただの勘違いかもしれないけれど。

 もう少だけ一緒にいてあげたかったと思うものの、また寒い夜道を引き返すことになりそうだ。
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