冷徹社長の容赦ないご愛執
「だから、一般企業に就職して、がむしゃらにやって来た。どんなにつらくて苦労することばかりでも、やりがいのある仕事には盛大な達成感が待っているからな」


 たくましい胸元から伝わる心地のいい声の振動は、のぼせる頭をゆらゆらとゆりかごのように揺らす。

 今までこんなふうに、男の人の腕に身を預けるようなことをしたことはない。

 それなのに、なぜなんだろう。

 社長の温かさは私を安堵で包んでくれて、胸元から響いてくる深みのある声は、夢見心地を誘う。


「佐織」


 優しく私を呼ぶ社長は、抱き寄せる私の頭に頬をすり寄せ深くため息を吐いた。

 そこにどんな思いが込められているのか知りたくて腕の中から社長を見上げる。

 私を待っていたのは穏やかに細められた瞳。

 不安を抱えているわけではなさそうな表情にほっとすると、社長はまた私をしっかりと抱きしめ直した。

 恥ずかしくてどきどきしているのに、安心するなんて矛盾してる。

 自分の気持ちが今どんな形をしているのか、心の中を丁寧に探りながら、ゆったりと昔話を語る声に瞼を下ろした。



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