冷徹社長の容赦ないご愛執
 私が勤める肥前商事現社長の失脚が決まったのは、九月末に上半期決算が出ててから一週間後のことだった。

 年度末を待たずしての処遇は、株主・役員を始め、会社の社員達も定石だと思っているだろう。むしろ、半年も任を解かれたなかっただけ、破格の待遇だったのだ。

 食品からエネルギー事業まで、幅広く扱う総合商社である肥前商事の前年度決算は、頭を抱えるだけでは済まないほどの赤字だった。

 会長は株主達に罵詈雑言をいただきながら、米国にある大手商社にすがり、買収という形で首の皮を一枚繋いだようなものだった。

 買い取りを英断した米国のEMUAScompany(エミュアスカンパニー)は、元々肥前商事と取引のあった大きな商社。

 心機一転、経営を持ち直そうと気張っていた役員達だったけれど、上半期の経営状況は好転することなく不振続き。たった半年で持ち直せるなら買収の話など出なかっただろうと、半ばあきらめにも似た雰囲気が会社全体を包んでいた。
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