「あのぉ……」

「うん?」


 うっそりとしたまま、ごく自然に社長に呼びかける。

 頬杖から離れた美麗なお顔が、闇にも溶けない真っ直ぐな瞳でこちらを向いてきた。

 胸が鼓動を跳ねさせたのは、私の呼びかけに対してなんの違和感もない相槌が、自国の言葉で返されたからだ。

 さっきから乱されっぱなしの心臓の音に流してしまっていたけれど、社長が運転手に掛けた言葉も、馴染みの“それ”だった。


「やっぱり……

 ……日本語、通じてますよね?」


 しっかりと口に馴染んだ母国語で質問する私に、社長は口の端を上げてほくそ笑んだ。


「当たり前だろ、生粋の日本人なんだから」


 耳馴染みの日本語を紡いだ薄い唇を見つめながら、私は二の句を車外の夜の大通りに放り出してしまった。