冷徹社長の容赦ないご愛執
――『そもそもあれが社長に就任してからの業績が、著しく落ちているのは明白だ。
 肩書きだけを振りかざし、私腹を肥やしたいがためだけに、会社をひとつ潰そうとした人間を、この会社に残しているだけでもありがたく思ってもらいたいものだが』


 ごもっともだと思ったのは、きっとさきほど会議に同席した人事部長もそうだったと思う。

 もうそれ以上はなにも言い返すことはなく、社長の冷たくも見える内示に、部長は決定の文字を付けるしかなかった。

 昨夜、お寿司の前で見せていた子どものようなきらきらとした瞳は見る影もなく、社長は人事部会の間、鋭い目付きで切り刻むように査定評に目を通していた。


『同期である営業部長に左遷を言い渡されるのは不本意だろうが、それで奮起できる根性があれば、この会社にとってもいい起爆剤になるだろう』


 せめて東京本社に残してもらえないかという含みを見せていた人事部長の思いを、今ふたりだけのエレベーター内で、それとなく社長に伝えて返ってきた言葉はそれだった。
< 71 / 337 >

この作品をシェア

pagetop