溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
「今下に来ているんだけど、寄ってもいいかな?」
「えっ! そうなんですか! どうぞ上がってきてください」
そう伝えると、ありがとうという声の後、ガチャリと電話が切れた。何をしに来たのだろう。しかもタイムリーすぎてビックリした。
「誰か来るの?」
席を立ち出迎える準備をする私に、ユリさんが背後からそう問いかける。
「昨日打ち合わせした方が下に来ているみたいで」
「あぁ例のマツエクしてくれたって人ね。九条さんに会いに来たのかしら」
ユリさんの口から当たり前のように出てきた言葉に、えっ、とドアを押し開ける手が止まる。わざわざ九条さんに会いに来たの?
気になって本人を振り返り見てみるが、とくにこちらを気にすることなく、相変わらずの無愛想な顔でパソコンのモニターを睨んでいるだけ。