こけしの恋歌~コイウタ~
期待
「こけしちゃん、おはよう」

後ろから声をかけられ、おそるおそる振り返ると、朝から爽やかな笑顔を向ける成瀬課長が立っていた。

「課長、おはようございます」

満面の笑顔で挨拶する。
顔色も良くなり、目の下のクマもマシになった。
ただ、精神的な疲れはとれないどころか、益々重くのしかかってくる。

疲れを悟られないように、努めて明るく振る舞う。

「課長、あだ名で呼ばないでくださいって何度もお願いしてるんですけど」

そんな私の抗議の声は課長の業務命令に掻き消された。

「こけしちゃん、午後は資料室で仕事手伝ってくれる?」

時々営業部に資料探しを頼まれて行くことがある。
広いフロアにびっしり棚が置かれていて、まるで学校の図書室のような資料室。

課長とふたりきりだと思うと緊張してくる。
一方で、嬉しくてつい顔がにやけそうになるのを堪えて、平静を装う。

「わかりました」

早く午後にならないかな。
午前中は仕事に集中しようと思っても、頭の中に課長が浮かぶ、その繰り返しだった。










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