マンゴーゼリー
マンゴーゼリー
仕事を終えて、帰り支度をしていると、部下に声をかけられた。


「水野部長、これから飲みに行きませんか?」


声をかけてくれたのは3人。どの部下も優秀な人物ばかりだ。


「悪いな。今日は帰るよ。」



嫌われてはいないと思うが、自分の子供ほどの年齢の部下たちだ。きっと自分が行けば気を使わせてしまうだろう。それに、今日は早く帰ると決めていた。


「え?でも、娘さん、もう家に帰ったんじゃなかったですか?」


「あぁ、昨日、迎えが来てな。帰ったよ。」


「え~それならいいじゃないですか。飲みに行きましょうよ~。」



「いや、妻が今日から一人だから帰るよ。初日くらいはな。お疲れ様」



そう言ってその場を後にした。



2ヶ月前に娘が出産して、その後しばらく里帰りで帰ってきていた。

娘婿は、仕事が忙しいらしく、慣れない子育てをする娘を心配して、里帰りを薦めてくれたのだ。
そのおかげで、この2ヶ月、うちはずいぶん賑やかだった。


娘に、初孫の浩太がいてにぎやかなのは当然だが、娘婿は息子に会いに頻繁にやってくるし(もしかしたら、妻である娘に会いにきていたのかもしれないが)、なぜか、新婚のはずの息子までやってくる。


末っ子の娘が大学進学で一人暮らしを始めて約10年、夫婦2人きりで静かなだった家が久しぶりに賑やかだった。


だが、昨日その娘も、自分が暮らす家へと帰っていた。
娘婿は、もう少し実家にいても良いと言ってくれたが、早く帰ってきてほしいのは態度ににじみ出ていた。


夫婦が仲の良いことはいいことだ。


だが、妻は今日からずいぶん寂しい思いをするのではないか。そんなことを思い、初日の今日は早く帰ろうと決めていた。
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