鉄仮面女史の微笑みと涙
序章
部屋に渇いた音が響く
私は下唇を噛んで早く終わるのを待つしかない
夫が小さく呻き声をあげて打ち付ける腰が最奥で止まる
私の中に、夫が放ったものが広がる
夫は私から出て行くと、すぐにシャワーを浴びるためバスルームへと向かう
私は夫の支えがなくなり、うつ伏せでベッドに突っ伏した

夫が私を抱く時はいつも後ろから
私は膝を立てて夫を迎え入れるだけ
夫は動物みたいに繋がるようにしか私を抱かない
息が整うと自分の後始末をして、下着とパジャマを身につけ夫の寝室から自分の寝室へと移動した
夫がシャワーを浴びている間に私は夫の寝室から消えなきゃいけない
そうしないと、夫はとたんに不機嫌になる
夫が不機嫌になるということは、私には恐怖でしかない
夫がバスルームから寝室に戻った音を聞いて、自分のカバンからピルを一錠取り出しキッチンへと向かい、それを飲んだ
そして私もシャワーを浴びるためバスルームへと向かう
ふと洗面台の鏡に映った自分の顔を見る


「あなた、なんて顔してるの?」


こみ上げる涙を我慢するため、下唇をギュッと噛んだ

そしてシャワーを浴びた
流れていく水を見て、私も流れていきたい
ここから消えたい
そう思いながら、また下唇を噛んだ
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