鉄仮面女史の微笑みと涙
幸せ掴め
誰かに揺さぶられて気が付いた
でもあまりの眠気に意識が朦朧としている
誰かに支えられてどこかに連れて行かれて、誰かが喋っている
段々と頭がはっきりしてきて、誰かに名前を呼ばれて顔を上げると優しい顔の女性がいた


「加納さん、分かりますか?」
「あ、はい……あの、ここは?」
「病院です。私は医師の松村と言います。治療はもう終わりましたので帰ってもいいですよ」
「はい、ありがとうございました」


私は松村先生の手を借りて診察室を出ると、そこには皆川部長と柳沢先生が待っていた


「部長、先生……」


そうだった
私は夫に……
この2人が来てくれなかったらどうなっていたのだろう


「加納課長、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。あの……ありがとうございました」
「それはいいから、行こう。先生、ありがとうございました」
「いいえ。何かあったらいつでも連絡を」


私は松村先生に頭を下げ、2人に促されて病院を出ると車に乗せられた
柳沢先生が運転してるから、先生の車なのかなとかどうでもいいことを考えていたら皆川部長に声をかけられた


「加納課長、今日は僕の家に泊まってもらうから」
「え?」
「そんな状態で1人には出来ないよ」
「でも……」
「祥子も待ってるから、ね?」
「……はい」


祥子ちゃん、久しぶりに会えるんだ
でも、私のこと許してくれるのかな?
私、あの時ひどいこと言っちゃったから


しばらくすると部長の自宅マンションに着き、車を降りた時、脚がガクっとなった
その瞬間、柳沢先生が私を支えてくれた


「すいません、ありがとうございます」
「いや……」
「柳沢、加納課長、こっちだ」
「ああ、分かった。行こう、加納さん」
「はい」


部長がスーツケースと私のカバンを運んでくれて、先生が私を支えながら歩いてくれて部長の自宅に着いた


「ただいま」
「お帰りなさい、慎一郎さん」
「祥子、今日加納課長うちに泊まってもらうから」


私達は部長の自宅に上がり、リビングに通された
そこには、久しぶりの祥子ちゃんと、相川課長と進藤課長がいた


「海青ちゃん……こっちのソファーに座って?今、お水持って来る」


先生が私をソファーに座らせてくれて、私は大きく息を吐いた
祥子ちゃんがお水を持って来てくれたので、グラスを手に持とうとするが、手が震えてグラスが持てない
今さらになって夫にされたことの恐怖が蘇ってきたらしい
そんな私の手を先生が優しく押さえながら言った


「今日はもう休んだ方がいい」


そう言って帰ろうとする先生の腕を掴んだ
先生は驚いて私を見た


「先生?」
「ん?」
「先生が言ってたしんどいことって、今日のことですか?」
「いや……」
「これ以上、まだしんどいことがあるんですか?」
「今日はやめた方がいい。また連絡するから」
「いつ聞いても同じです!!」


先生の言葉を遮って言った私に部長達はびっくりしていた
でも、先生は小さく息を吐いて分かったと言ってくれた
相川課長達は自分達は帰るからと言って帰って行った

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