王族の婚姻をなんだと思っていますか!

候爵家の令嬢

***


真冬の夜明けは遅い。時刻を報せる鐘が5つ鳴る頃に、ようやく空が藍色がかってくる。

日が昇る前の空気はピンと張り詰めるように寒く、だけど、目の前の光景は暑苦しい。

「あれ? 父上はもう疲れましたか?」

「うるさいわい! お前のようなひよっこに負けるワシではない!」

朝も早くから、騒がしい父上と兄上。

わざわざ屋敷の一角に剣の練習場を設け、殺るか殺られるか的な雰囲気を出しながら、仕事に行く前の軽い運動と称して楽しそうに木刀を振るっている。

それがまぁ、なんと言うか熱い。

実際に真冬のふたりからは、もわもわ湯気が立っているのが笑っちゃうんだけど、何をそんなに熱くなるっていうか……。

うん。でも、昔からのうちの日課だからなぁ、これ。

母上はともかく、身体を動かすのが大好きだよね、うちの家族。

私もよく混じって剣の練習をしていたけど、青あざを見つけた母上に『嫁入り前の娘に、傷をつけるなんて言語道断!』て言われて、17歳の時にやめさせられた。

たまに、混じって父上打ち負かしたいなぁとか思うのは、たぶん、貴族の娘らしからぬことなんだとはわかっているんだけどね。

確かに父上の強さは尋常じゃない。でも、兄上とタッグを組んだらいけるんじゃないかな。
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