キッチン・シェア〜びっくりするほど気づいてくれない!〜
寒川はまずけんちん汁をすすった。

「美味しいです……」

白味噌というやつだろうか、少し甘い味噌味がベースになり、胡麻油の香りと相まって濃厚な出汁。

ほろほろと砕かれた豆腐に味がよくしみている。

そしてシャキシャキとした根菜類の軽快な歯ごたえ。

ため息をつくように、寒川は率直に感想を表した。

「ほんとに? 苦手なもの入ってない?」

「大丈夫です、俺基本何でも食べられるんで」

さおりはおお、完璧だな?と言ってけんちん汁をすすった。

「うちは昔からけんちん汁を味噌で作るんだけど、寒川家はどう?」

「うちは母がごぼう嫌いで家ではあまり……けんちん汁って給食で出るイメージだったなぁ、あんまり記憶が定かじゃないけど、今味噌派になりました!」

しょうが焼きはとても柔らかく、焼き加減が絶妙だった。

よく喋るさおりがいなければ、すごい速さで完食してしまうところだった。

薄いグリーンのカーテンがふわりと舞い、涼しい九月の夜風が入ってきて頬を撫でる。

この人、いいな。子供みたいにはしゃいでるかと思ったら落ち着いた雰囲気もあって……料理はうまいし、素敵な暮らしぶりだし……ああ、今の彼女とは大違いだ。

「寒川くんって趣味はなんなの?」

そんなことを考えながらぼうっとしていた寒川に、さおりは唐突にお見合いのような質問をしてきた。

寒川はあわてて現実に帰り答える。

「趣味……か、学生時代はバドミントンをやってたんですけど、最近めっきり。でも本は読むようになりましたね、そういえば。いちおう読書なのかな」

さおりは目を輝かせる。

それから小一時間ほどたわいのない話をして、その日は別れた。


< 10 / 22 >

この作品をシェア

pagetop