棘を包む優しい君に
3.危機に陥る
「モデルなんて性に合わないね。
 まぁ見た目を活かしてモデルやってる奴もいるけどな。」

 生き残るための術だろう。

 人外は見た目がいいことが多いらしい。
 我が社にいる奴らも大抵はイケメンと呼ばれる奴らだった。

 人ならざるものが人間界で生きていくための術……。

「副社長はすごいなぁ。
 次期社長なのに、他にも仕事をして成功していて。」

「だから副社長はやめろって。
 針谷じゃオヤジと分からなくなるから健吾でいい。」

 面倒な奴。

 そう思っていたのに自分に対する態度が仲間達とそれほど変わらない朱莉に話しやすさを感じていた。
 普通に会話をして朱莉が隣にいることを今は少なからず居心地のいいものに変わっていた。

「いいな〜。
 私の夢はハリヤブランドのウェディングドレスを着ることです。」

 うっとりとドレスを眺める朱莉に苦笑した。

「作ってくれとは言わないんだな。」

「そ、そんな滅相もない。
 着る予定もまだありませんし、そんな相手も……。」

 朱莉は今まで接してきた女とは違うのかもしれない。
 変ではあるが、自然体で一緒にいると肩の力が抜けるような気がする。

「あ!そうだ。私、チョコが大好きで。
 毎日持ち歩いてるんです。
 食べませんか?」

 鞄から出したのは可愛らしい箱だった。
 中には宝石のようなチョコが並んでいる。

「いいのか?
 大好きなチョコなんだろ?」

「いいんです。
 一緒に食べた方が美味しいですから。」

 勧められて手を伸ばす。
 煌びやかな物は避けてシンプルな物を口に運んだ。

 口溶けが滑らかでほどけていくチョコに自分の心も溶けるようだった。

 変わった奴だとは思ったが……。
 こいつ案外………。

 不意に異変に気付いて声を上げた。

「おい。このチョコってまさか………。」

 気付いたのが遅く、声が小さくなって情けなくなる。

「あれ?副社長??
 どこ行きました??あれ?」

 慌てている朱莉が部屋を見回している。

 健吾は急いで脱げた服を陰に押し込んだ。
 押し込んだ服のせいで自分自身が隠れられなくなってあたふたする。
 とにかく隠れなければと急ぐ途中で健吾を探している視線と目があった。

「あれ?こんな所に!」

 視線をそらせずに固まったところを両手ですくい上げられた。
 万事休すという言葉が頭によぎった。



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