主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 

命の重さ

主さまはいつものように百鬼夜行に出て行った。

息吹もいつものように朔たちを風呂に入れて寝かしつけて、いつもの日常を心掛けた。


「雪ちゃん、そろそろ私も寝るね。後をお願いします」


「ああ。今日はみんな一緒に寝るんだろ?」


「うん、さすがにちょっと部屋が狭くてぎゅうぎゅうになっちゃったから広い部屋でみんなで寝るの。雪ちゃんも一緒に寝る?」


なんと罪深いことを。

雪男ははにかんで首を振ると、月夜を見上げた。


「や、俺は俺の役目を果たすよ。後で様子見に行く。息吹、おやすみ」


「おやすみなさい」


――実際この屋敷に侵入を許したことは今までないのだが、用心深い雪男は山姫と共にいつものように留守役をこなす。


「息吹から話聞いたんだろ?」


「聞いたよ。あたしたちふたりで泣いちまってねえ。最近涙もろくていけないよ」


「お前さ、晴明と夫婦になってだいぶ経つだろ。子はどうした」


「あたしの子は息吹だけさ。晴明だってそう思ってる。だからいいんだ」


「ふうん、そんなもんか?」


「そんなもんさ。あんただって執念深く息吹と主さまが離縁するのを待ってるんだろ?そろそろそれが無駄骨だって気付いた方がいいよ」


「ははっ、ま、そう簡単に諦められたらいいんだけどな」


妖は一度誰かを愛すると、なかなか心変わりをすることがない。

雪男も息吹に惚れてからもうだいぶ経つが諦めようとしても諦めきれず――しかも主さまとの間に子は増えるばかり


「最近自分のこと考えてられないんだよな。坊たちはうるさいしさ」


「もう我が子みたいなもんだろ?きっと息吹と離れて泣くこともあるよ。あんた教育係なんだからちゃんと慰めたり面倒見なよ」


「はいはい」


雪男がまた笑いながら縁側で瞑想しようと目を閉じた時――


――『………なの…?』


何者かの声が聞こえた気がして、居間の方を振り返る。


「…気のせい…か?」


「なんだい?」


「いや…なんでもない」


…妙な胸騒ぎがする。

主さま案件になりそうな予感がして、主さまが帰ってきたらすぐに話さなければとまた目を閉じた。
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