いつか、らせん階段で
別離はシェリー酒の香り
留学まであと3週間。
荷物をまとめて大半を実家に送り、尚也の部屋には必要最低限のものしか置いてない状態だったから、尚也はほとんど私の部屋で過ごしていた。

出発の1週間前には実家に数日間戻ると聞いていた。だから、私たちに残された時間は残り少ない。

あの見合い話?の後から尚也は度々「実家に帰る」と言って出て行き一晩戻って来ない。
本当に実家に戻っているのか、見合い相手の美女と一緒に過ごしているのか。
私にはわからない。

どちらにしても、私には関係ない話だ。
私の前で尚也はほとんど留学の話はしない。本当に必要最低限。今のアパートの退去期限の話とかだけ。
だから、私はアメリカでの住所も知らないし、一時帰国する予定があるのかも知らない。何も知らされていない。

私は本当に留学までの期限付き彼女だったらしい。
笑っちゃう。



「夏葉、今度の休みはデートしよう」
「え?」

付き合って1年半、デートらしいデートなんて数回しかしたことがない。
映画を観に行った、テーマパークに行った、一度だけ箱根の温泉に泊まりで出かけた。
そんな程度。

私たちはお互いまだ社会人としては新米で、覚えること、勉強しなければいけないこと、やらなきゃならないことが多すぎた。
もともと2人とも生真面目だから、中途半端が嫌いで早く仕事を覚えたい気持ちが強かったこともある。

今さらデートって事は別れる前の思い出作り?
それとも捨てていく女への償い?

「どうしたのよ、尚也。出発準備で忙しいんでしょ。書類は全部書いたの?提出は?あいさつ回りは?送別会は?」

「忙しいけど、夏葉とどっかに行きたい。書類はまだ書き終わってない」

「準備が間に合わない方が困るから、先に準備して、余った日があればデートすればいいじゃない」

「夏葉と行きたい」

こうなると尚也は絶対に譲らない。
はぁーっとため息が出た。
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