御曹司と婚前同居、はじめます

第5話 ＊ 笑顔の裏

初日以来、瑛真はベッドに潜り込んでくることはなかった。

ここに越してきてから目覚めが良い日が続いている。

あのアパート、契約してから知ったんだけど音漏れが酷いのよね。

軽量鉄骨造らしいのだけど、木造よりも騒音漏れはうるさいらしい。

夜勤の時は私も迷惑をかけていたかもしれないけれど、それでも下の階に住む大学生の、配慮の無い生活音に日々悩まされていた。

瑛真が言っていたようにお金と時間をいくらでもかけるわけにはいかないけれど、ある程度の生活の質を確保することは必要なのかもしれない。

リビングと瑛真の寝室が扉一枚でしか遮られていないので、毎朝音を立てないように朝食を作るのは神経を擦り減らす。

一緒に暮らすようになって二週間。

会社では相変わらず役立たずな私だけど、家ではそれなりに頑張っているつもりだ。

朝食の準備を終えて、コーヒーを入れたマグカップを片手に窓際に立つ。

見渡す限り灰色だ。

今日も雨かぁ。

今週に入ってから秋の長雨が続いている。