意地悪上司は私に夢中!?
帰宅後、荷物を一通り詰め終わり、ガムテープで封をした。

もっとたくさんあると思っていた龍二の荷物は案外少なかった。

大半が服。あとは本くらいだ。

龍二から今日届いていた荷物も、私の洋服とメイク道具が少し入っていただけだった。

呆気ないな。

これを送れば、もうおしまい。

私たちの関係は完全に切れてしまう。

龍二だって早々に荷物をまとめて送ってきたんだ。

私も早く送ってしまおう。

ベッドに倒れ込んで、そうそう、ウチはこんな硬いマットだ、なんてひとりで納得。

ウチの安物のベッドといかにも高そうなあのスプリングベッドじゃ寝心地が全然違う。


『元カレの名前を呼びながら泣くお前を、抱くことはできなかった』

確かに服は着ていた。

一度脱がされたような痕跡もなかった。

…永瀬さんってそんなに誠実な人なの?

イケメンなのに。

遊んでそうなのに。


…だけど、あの手の温もりに助けられたのは確かだ。

私の思い違いかもしれないけど、もし本当に永瀬さんが手を握ってくれていたのなら…

サイドテーブルの薬と言い、冷蔵庫の張り紙と言い、口は悪いけど案外やさしいのかな。


大事なことに閃いてバッと起き上がった。

お礼、してない。

あれだけお世話になっておいて、お礼してない!!

それどころか、手出したなんて疑ってかかって…

せめて『ありがとうございました』って書き置きくらい残してくればよかった。

バカすぎる、私。

仮にも相手は上司。

泥酔しためんどくさい女を運んでくれた上にベッドまで貸してくれたのに、お礼もなしなんて失礼すぎる。


明日…ちゃんと言わなきゃ。


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