アパートに着いて、真っ暗な部屋に手探りでカチッと電気をつけたら、当然だけど今朝と変わらない光景が広がっていた。

遅刻しかけて脱ぎっぱなしになっていた寝巻。

シンクにつけたままの洗い物。

テーブルの脇に転がったリモコン。

我ながらなんてだらしないんだ。


「…ただいま」

誰もいないと分かっているのに、今日はなぜか声が漏れた。

急に寂しくなって、胸が苦しくなって、カバンを放り投げてローソファに座り込んだ。

安物のローソファは、座布団よりも座り心地が悪い。

だけどこれは、龍二と一緒に選んだものだから、もったいなくて今まで買い替えようと思わなかった。

寝転がると背中が痛くなるそのローソファに、今度は倒れ込むように横になった。

…やっぱり痛い。寝心地最悪。

目元に腕を乗せて、電気の眩しさを遮断する。


…あんな別れ方をしたかったわけじゃないんだ。

ものすごく好きで、ずっと一緒にいたくて、だけど…最近は忙しいと言って会える回数が減っていたのは事実だった。

一昨日久しぶりに会えたのに、今日もまた会えるなんてラッキーだと呑気に思ってた。

気づかなかった私も悪い。

結婚なんて言葉に余裕をかまして、龍二を大切にできていなかったのかもしれない。

心当たりなんて探せばいくらでも出てくる。

せめて笑って別れたかった。

私の好きだったあの笑顔を焼き付けて別れたかった。


「…荷物、送らなきゃ、かあ…」

部屋を見渡せば、4年分の卓也の痕跡がたくさんあって、それを全部回収しようとするのはきっと難しい。

物はともかく、思い出は簡単には消せない。

そう思ったらまた涙が出そうになって、唇を噛んだ。

…なんてのは無駄で、やっぱり涙は次から次へと目元に生まれては流れていく。



鈴原 歩美(すずはら あゆみ) 27歳。


大好きだった彼に、失恋した。



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