好きって言って、その唇で。
番外編 好きなんて、言えない。


「奈々子、僕はそろそろ同棲したいと思うんだけど」


神妙な面持ちでそう切り出してきた男の顔を見やる。終業後の誰もいないオフィス。

窓のブラインドから漏れる夕日がまるでスポットライトのように金髪を照らしてキラキラと乱反射する。


「そもそも私達付き合ってましたっけ」


ホチキス留めをしてまとめ終えた資料の束を手でまとめながら遠い目でそう言うと、片桐さんはダメージを受けたとでも言うように大げさに呻き声を上げながら自分の胸のあたりに手を当てて前かがみになった。

ほんといちいちリアクションがうるさいな、このフランス人(ハーフ)。


「そんな……奈々子は貞淑だと思っていたのに、好きでもない男とキスをする女性だったなんて……」

「好きじゃないなんて一言も言ってませんけど」


片桐さんの目も見ずにそう言うと、ゆっくりと顔を覗き込まれる。

目を合わせたら終わりだ。この男のペースに呑まれるわけにはいかない。


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