淫雨
リンゴとレアチーズ
八重樫さん。


「窓際、俺も好きですよ」

「なに突然」

「――あ、お姉さん日替わりBを一つお願いします。コーヒーじゃなくてホットミルクあります? あぁ、良かった。え、デザートもあるの? どっち食べた?」

「え? レアチーズ」


彼が敬語を忘れたのについ答えてしまった。


「じゃあアップルパイのほうで、最後じゃなくて途中で持って来てもらって、それで」

「そっちは別のやつにするんだね」

「だって俺デザートはそんな好きじゃないもん」

「んん?」


また敬語が……


「レアチーズを食べたんなら違うほうが良くない?」


自由人め。思わず出かかった言葉を咀嚼して、昇華した溜息を一つ。 彼は、根が優しい。わたしはそれを知っている。よし、とどこか勢いづけて答えた。


「そうだね。わたしにくれるつもりだったんならそうなるね」

「一人で食べてもつまんないしね。そっちも食べてるヤツを見てるだけじゃつまんないでしょう」

「わたしが帰る、とは思わないわけ」

「えっ、用事あんの?」

「ないけど……わたしがリンゴアレルギーだったら、とかも思わないわけ」

「そんなのあるんだ? 虹花はないよね? むしろリンゴが好物だし。そういうの『双子』でも変わるんだ?」
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