淫雨
教えてくれたのはあの子
「来た。ありがとうございます。わっ、うまそう。じゃあデザートもスープのときくらいにお願いしまーす」


わたしがつい先程食べ終えたばかりのモノと、全く同じメニューが再び卓上へ乗った。


鼻歌交じりにパンを齧る彼に、思わず訊いてしまった。


「Aを頼むかと思った。ホワイトソースのオムレツ好きなんでしょ?」

「あぁ、もう響きだけで美味しそうで涎出そう」

「汚い」


ついでに言えば、ホットミルクに千切ったパンの先端を浸して食べるものだから、あぁ、もう。


「家でどんな風に過ごしてるか筒抜け」

「美味しい物を美味しく食べないでどうすんの」


備え付けの布巾に目配せすると、白濁した唇をようやく拭いたのだった。


頭を抱えるフリをして、目頭を押さえた。これは彼がくれたチャンスなのかもしれない。全て知っている彼の不器用で繊細な同情だ。


自由気侭にしか生きられない彼は、囚われているわたしを憐れんでいる。


誰よりも彼自身が囚われているのに、そのことを一度として悲しんだことがないくせに、わたしを心配していた。
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