極上スイートオフィス 御曹司の独占愛


「吉住、宿題忘れずにね」


その言葉に振り向けば、笑みを浮かべる彼と目が合う。


「僕も考えておくよ」

「いえっ! あれは、すみません、甘え過ぎでした! ちゃんと自分で考えます!」


少しでも、接触を避けなければいけない。
無意識にそう、彼を避けた。


もの言いたげな伊崎の立つ出入り口を通り過ぎ、一礼だけしてミーティングルームを後にする。
扉も閉まって、もう朝比奈さんの声なんて聞こえないのに、それでも早足のまま必死で逃げてるようだった。


心臓の早鐘に拍車がかかり、苦しさで泣きそうになる。


いやだ。
あの人ともう、恋はしたくない。


もう好きになりたくない。


飛び込んだのは、トイレだった。
幸い誰もおらず手洗い場の鏡の前で、どっと脱力する。


物凄く、顔を洗いたい。
顔面にビシャビシャ水をかけたい衝動に駆られたが、なんとか堪えた。


午後から外出しなければいけないのに、すっぴんになってどうする。
水を出して無意味に手を洗って、その水の冷たさが心地よくてようやく呼吸が落ち着いてくる。


「……朝比奈さん、なんか変わった?」


穏やかで優しい笑顔はそのままだったけれど、それ以外の一面が私の知る彼とは違った。


あんな、強引に誘うような話し方をする人じゃなかった。
意地悪そうに、からかう口調も。


あ、そうか。
私、からかわれた?


いや、だから前はそんな人じゃなかったって!


混乱しながら、ふと、目の前の鏡に映る自分と目があった。


「……ひどい」


真赤で、涙目で、何気に髪も乱れて、女らしさの欠片も無い、酷い有様だった。

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