極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
最後の会話、一体何だろう?
ぼうっと見送っているうちに、やがて朝比奈さんの足音が聞こえなくなる。
身体の緊張が解けて、右足首の痛みが急に強くなり眉を顰めた。
「……冷やさないとまずいかな」
そう呟きながら、バッグの中で鍵を探す、その手がのろのろとしてうまく動かない。
気が散っているからだ。
朝比奈さんとの会話が、頭の中で繰り返される。
三年前、まるで息を吐くようにさらりと嘘を吐いたと、私はそのことがショックだった。
でもそれが、そもそも本当に嘘じゃないのだとしたら。
ずっと、記憶の奥に封じ込めて蓋をして、思い出さないようにしてた。
考えないようにしてた。
ふたりを見た時、どんな状況だった?
朝比奈さんが言ったようなことが、本当にあり得るだろうか。
間違いなく、倉野さんとふたりだけだった、と思う。
バッグの中で探り当てた鍵を取り出せば、鈴付きのチャームがちりんと鈍い音をさせる。
『……僕を見た時、他に誰かといた?』
朝比奈さんがそう尋ねた意味が、どこかにあるのかもしれない。
そう思えば、私はおそるおそる、記憶の蓋に手を伸ばし始めていた。