いじっぱりなオトコマエ女子と腹黒なイケメン御曹司の攻防
2
「ーーー悪夢だわ」

「そう?幸せな偶然の間違いじゃない?」

私が眉間のシワを可能な限り深くしたのも、ジトリと睨んでいるのもおかまいなし。やけに楽しそうに返された。

「ま、とりあえず座ったら?このまま帰るわけにはいかないでしょ?」

長い指で向かいの椅子を示された私は、ため息を飲み込んでおとなしく席に着く。

「本当に偶然なの?」

「うん、偶然。だから俺も驚いてる」

こんな偶然ありえないだろうと思うけど、証拠もなしにこれ以上疑うのは失礼というもの。考えてみれば、偶然を装ってまで彼が私と会おうとする理由もないしね。

小さく深呼吸をして仕事モードに切り替える。

「失礼しました。ご挨拶からやり直させて下さい。私、アーバンリサーチの柏木湊と申します。本日の打ち合わせに担当の市来梨花が出席出来ず、申し訳ありません」

「こちらこそ、よろしくお願いします。ウェブデザイナーをしております、ミズイ リョウです。早速、資料を見せていただけますか?」

向こうも切り替えたらしい。メタルフレームの眼鏡のブリッジに指を添えてかけ直すと、涼やかな視線で私を見た。
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